「勝利の女神」から「天使」へ
キリスト教の起こりと共に、神の使者である天使が現れます。
- 天使は、神の御心を人間に伝えるため、天球儀と十字架を手に天から地上に舞い降り、神の権勢と栄誉を明示します。
大天使ガブリエル、紀元6 -7世紀、キプロス、キティ、パナギア・アンゲロクティスティ修道院
- 天使は、古代ギリシア・ローマの「勝利の女神」のように翼をもち、ローマ帝国時代末期の伝統的な男性の服装をしています。すなわち、幅の広い袖がついた長いチュニックの上に、胸に斜めの襞の入った、あるいは肩の上に折り返しのある長いマントを羽織っています。
サンタ・マリア・イン・トラステーヴェレ聖堂のモザイク画、1291年、イタリア、ローマ
- そして、中世末期に入ると、天使の服装が女性的になります。マントの襞はスカーフへと変わり、チュニックは、袖を絞り、高い位置で帯を締めた優雅なドレスになるのです。
《受胎告知》、フラ・アンジェリコ、15世紀、フィレンツェ、サン・マルコ美術館
- クワトロチェントのイタリアで古代の模範の復興がおこると、「勝利の女神」と女性化した「天使」とは、混同されるほど似通った姿になりました。しかし、もちろん、それぞれが用いられている背景を考え併せれば、どちらがどちらかを間違えることはありません。
殉教者プロトゥス、ヒュアキントス、ネメギウスの聖遺物匣(こう)、ロレンツォ・ギベルティ、1425年~1428年、フィレンツェ、バルジェッロ国立美術館