用語集

イコン(アイコン)

歴史的に、イコンとは正教会の伝統において、聖職者の画像のことを指す。現代においてはその用法は拡大し、イコン(アイコン)は共同体内部で、また異なる時代を通して直ちに認識されうる、象徴的なあらゆる像を指す。したがってイコン(アイコン)は、象徴や人物、またはその名前や図像を指すこともある。

 

オノマスティック

ギリシア語の「オノマスティケー」(名付ける術)からきた語で、人や場所の固有名詞の起源を探求する学問をいう。

 

カルトン(下絵)

カルトンとは、最終的な作品と同サイズの下絵のこと。カルトンを別の基底材へ複写したり、別な制作技法を用いて同じ作品を制作する。カルトン自体の制作にはデッサンや絵画などあらゆる技術が用いられ、最終作品の創作に関しては、あらゆる複写方法、基底材、技法が用いられる。

 

グアルネッロ

ルネサンス期イタリアにおいて、妊娠中の女性が着ていたドレス、あるいは部屋着用ドレスの一部には、その表面全体が、綿、麻、羊毛、絹などでできた薄い布で覆われているものがあった。このヴェールのことをイタリア語でグアルネッロという。

 

グラッシ

軽く透明な、絵の具またはニスの層のこと。非常に滑らかな素材であり、薄く均等に塗ることで、下の絵の具の色合いや見かけに変化をもたせるために用いる。グラッシは、視覚的に透明感を与え、色彩の明度を増大する役割がある。より具体的には、例えば青から緑や紫の要素を消去するといったように、ある色の両側の色スペクトルを消去する働きをする。この技法は油彩画における代表的な表現方法の一つでもある。

 

クルヴェ

服飾で、服の袖に入れる切り込みのことを指す。

 

ジェッソ

ギリシア語で「ギプス」または石膏を意味する語に由来するイタリア語。白く半透明な石で、水にわずかに溶ける(1グラム/リットル)。絵画においては、この石は南欧の絵画の下塗りや地塗り用塗料として最も一般的に用いられ、特に絵画用の木板の地塗りに使用される。

 

紫外線蛍光(撮影)

紫外線蛍光とは、技法分析などの科学的目的のため用いられる光線照射のこと。光源から紫外線が照射され、検査対象物質の性質により異なる蛍光現象を引き起こす。この種の検査により、観察表面の不均一性を特定することができ、ニスの層や、作品に施された様々な修復作業を明らかにできる。ルパン(他の画家による加筆)やルトゥーシュ(画家自身による修正)は、紫外線蛍光撮影では暗い染みとして現れる。

 

水平線

水平線とは、地球の曲面(海面または水面)に接する直線とその褶曲(山の頂上や稜線)を含む水平の領域を指す。この領域は、観察者の視界をもとに決定される高さ(目の高さ)に位置する、いわゆる「観察者」の視点に対応するもので、空と地面とはここで接しているように見える。

 

スフマート

煙を意味するイタリア語「フーモ」から由来する語で、非常に薄い煙を通して物の形を見たような、すなわち、はっきりとした輪郭がない状態で生み出す視覚的効果(ミクロンの単位に至る)のことを指す。技法的には、、影の部分の全体的な下絵を描いた後、色素をほとんど含まない薄い絵の具の層を重ねていき、油絵の具できわめて緻密に形を描き込みながら、グラッシと呼ばれる効果を生む。

 

赤外線反射撮影

赤外線(I.R.)反射撮影は、赤外線を用いて、絵の具の色素によって隠された炭素の層を、絵を傷めることなく可視化することができる観察法である。この方法により、絵の具の下に隠れた下絵の素描や、作者の描き直しなどを明らかにできる。赤外線撮影を行うと、赤外線は裸眼で見ることのできる絵の具を透過し、黒鉛や木炭で描かれた部分は光線を吸収する。「ジェッソ」による白い地塗り部分は、カメラまで光線を反射するので、カンバスの深い部分の層はネガ像となって現れる。また、赤外線照射の周波数を変えることにより、光線を反射する物質と吸収する物質を変更することも可能である。

 

(小円柱の)柱身

建築において、円柱またはもしくは小円柱の柱身とは、柱脚と柱頭との間に位置する垂直の支柱のことをいう。

 

鳥瞰図

絵画において鳥瞰図とは、映画の俯瞰撮影のように上から見下ろした構図のこと。別の言い方をすれば、高所あるいは空中から水平面を、90°以下の角度から見た視点を表す。

 

二重燕尾形蟻枘(ありほぞ)

古フランス語で「アロンド」と呼ばれる、ツバメの尾の形をした木材部品を指し、同じ形にくり抜いたもう一方の木材部品にはめ込むことで、接合部の補強に用いられた。これらの部品は、はめ込まれる木板の三分の一から半分の厚さで、また、木製パネルの表あるいは裏に施されることもある。

 

ニス

絵画においてニスとは、樹脂系の保護膜あるいは結合剤である。その第一の用途は絵画表面の保護であるが、同時に表面の微妙な起伏を平らにし、塗料の色調を深める役割もある。ニスは通常、透明で柔らかく輝きがあり、塗り広げるのが容易なことが特徴である。しかし、天然の樹脂はすべて、年月の経過とともに黄色く変色してしまう。

 

ノン・フィニート

文字通り訳すと「未完成」を意味するイタリア語で、芸術の範疇では未完成の美しさを指す。その場合、完璧に達することの不可能性、あるいは、自然をその完全な繊細さにおいて再現することの不可能性と同意義となる。したがって、ノン・フィニートは芸術家の意図的な表現方法を示すものと考えることができる。

 

パラペ(欄干)

パラペはイタリア語の「パラペット」が由来の語。元来、建物を軍隊の攻撃から防御するために用いられたもので、バルコニーやテラス、屋根、その他の建築構造の端に作られた小さな壁を指す。これは手すりとしての用も足すように、支えにできる高さで作られた。

 

ひげ

絵の「ひげ」とは、地塗りの作業から絵の具を塗って絵を仕上げていく間に、絵の縁にたまっていく絵の具などの塊のことを指す。基底材を固定してあったカンバス枠を取り外すときに現れる。

 

ポッツェット(椅子)

イタリア・ルネサンスに特徴的な、木製の椅子。刳形(くりかた)が施された半円形の背もたれや肘掛けが、紡錘形の手すり子で座面に取り付けられており、その形が井戸の形(イタリア語でポッツォ)を連想させることから、このように呼ばれる。

 

ラキュヌ(欠損)

ラテン語で物体内部の空隙を意味する「ラクナ」が由来の語。絵画作品の絵の具の一層または複数層におよび生じた部分的な欠落や、場合によってはその基底材の一部の欠落のことを指す。

 

ラジオグラフィー(X線)

もともと医療分野で使われており、電磁放射による造影技術のことを意味し、ほとんどの場合X線が用いられる。これによりネガ画像が得られるが、そのコントラストは透過組織の厚みと減衰係数によって変化する。この語は拡大解釈され、造影技術のことを指すとともに、この技術によって撮影されたネガ画像自体に対しても使われている。

 

流用

芸術においての流用とは、すでに存在する作品を他の芸術家が再利用し、それによってオリジナルとは異なる、または正反対のメッセージをもつ新たな作品を創り出すことをいう。

 

ルトゥーシュ(修正)

ルトゥーシュは、絵画の修復作業において、やや多めの絵の具を用いて、絵の具の層のすり減りや欠落を補うことを指す。ルパンと同じく、ルトゥーシュは絵の作者自身が行う作業ではないが、最初の絵の具が塗られた後、だいぶ経ってから行われる。また、ルパンとは異なり、ルトゥーシュは、それが補塡する欠落部分(ラキュヌ)をはみ出すことはない。

 

ルパン(作者以外の画家による加筆)

ルパンとは、完成作品の絵の具の層の上に、作者以外の画家が加えた絵の具の加筆のことをいう。原則的に、ルパンは欠落部分(ラキュヌ)のみを補い覆うものだが、オリジナルの絵の具をも同時に覆ってしまうことが頻繁にある。ルパンは、絵の制作中に作者自身が行う描き入れを意味するルパンティールと混同してはならない。

 

ルパンティール(作者自身による描き直し)

ルパンティールとは、絵の制作中に、同じ絵の具を用いて、作者自身が部分的に加える修正のことをいう。ルパンティールはしばしば、絵の具の層の盛り上がりや、他の部分よりも早いひび割れ、時間の経過による最上層の透明度の高まりや、黒ずみによって見分けることができる。

 

ロッジア

ルネサンス期イタリアで登場したロッジアは、建物のファサードを後退させて強調する形の建築的要素の一つである。ほとんどのロッジアは屋根で覆われているが、眺めを楽しめるよう円柱を一定間隔で並べたアーケードにより外へ開かれた空間となっている。ロッジアの一方の側は閉ざされており、多くの場合、ロッジアの後方またはその上の階に通じる建物への連絡口がある。

 

 

ページトップへ